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院長日誌

  • 東へ西へ

    井上陽水の「二色の独楽」というアルバムに、「東へ西へ」という曲がありますが、、、6月5日の診療が終わってから東京に向かい、土曜日の朝から技工のセミナーに参加、セミナー終了後に新幹線で大阪に向かい、日曜日の朝から近畿東海矯正歯科学会に参加、学会終了後は松本に戻って来て、月曜日は朝からデスクワーク、火曜日は朝から診療、そして水曜日は、また朝から大阪に向かい、日本臨床矯正歯科医会に出席、、、木曜日の夜戻って来て、金曜土曜と診療して、土曜の夜から私用で出掛け、、、行ったり来たり忙しいですが、これらの学会は全て聞く側で、講演準備の必要がないので、気が楽です。
     
    金曜の夜、診療が終わってから、歯科技工士の川端下君と松崎君を連れて上京しました。
    宿泊は、会場近くの格安ホテルを取り、晩御飯は3人でホテル近くの「世界の山ちゃん」で一杯やりながら、ラボの事や、自分が今考えていることなどを話しました。
    普段は忙しくてあまり話す機会が無いので、こうゆう時間はとても大切です。
    何のセミナーを受講しに行ったか、詳細は、またの機会に書きます。
     

     

    お昼御飯、鬼のような かき揚げ丼に挑戦する川端下君
     

    なかなか刺激的なセミナーで、1日が「あっ」と言う間でした。
    セミナー修了後、講師の先生に挨拶をし、川端下君と松崎君は あずさで帰路に、自分は新幹線で大阪に向かいました。
    7日の日曜日に大阪国際会議場で開催される近畿東海矯正歯科学会に参加するためです。
    東京から大阪まで新幹線では「あっ」と言う間で、大阪には20時頃到着、晩御飯は蛸の徹でたこ焼きを食べたあと、会場近くのスーパーホテルに向かいました。
     

     
    この蛸の徹という店は、お好み焼き屋のようにたこ焼きの鉄板が各席に有り、自分でたこ焼きを焼くのですが、これがまたなんとも美味しくて、やめられないのです。
    場所は大阪駅前、丸ビルの地下2階にあります。
    自分で焼くたこ焼き以外にも、焼きそばや お好み焼き、とん平焼きなど、メニュー豊富でとても美味しいので、皆さんも大阪に行く機会があれば是非行ってみてください。
     

    たこ焼き、外はカリカリ、中はとろ〜り! おむそばも美味しいです。
     

    矯正の話しに戻しますと、日本矯正歯科学会には地方学会があり、長野県は甲北信越矯正歯科学会に属しているのですが、自分が松本歯科大学の矯正科に入局した当時は、甲北信越はまだ発足しておらず、近東学会に所属していました。
    甲北信越が出来た時点で退会しても良かったのですが、近東学会というのはアカデミックな会で、送られてくる学会誌も読みたいので、そのまま会員資格を継続しています。
     

    会場の大阪国際会議場
     

    今回の参加の目的は、USCGlenn T. Sameshima教授の “矯正歯科の歯根吸収 Q&A”という講演で、この先生の講演を聞くために出掛けました。
     
    私達、矯正歯科医は歯に矯正力をかけて歯を移動します。
    歯に矯正力がかかると、歯の回りを取り囲む骨の表面に骨を溶かす細胞が出て来て、骨が融けて歯が移動し、その反対側の空いた所には、骨を造る細胞が出てきて、新しい骨が出来、この骨改造が繰り返して起こることで歯が移動してゆくわけです。
    骨は、骨折した所のように新しい骨が造られて再生するのですが、歯は基本的に再生しません。
    ですので、理想的には骨だけが融けて歯が動いてくれて、歯の根っこは吸収しないで欲しいのですが、実際には歯の根っこも吸収して短くなってしまうことがあります。
    これを歯根吸収と言います。
    通常の矯正治療では、問題となるほどの歯根吸収は起こらないことが多いですが、稀に根っこの長さが半分くらになってしまうほどの著しい吸収を認めることがあります。
    また、レントゲンでは吸収がないように見えても、顕微鏡レベルで考えると微細な根吸収は必ず認められると言って良いと思います。
    問題は、その吸収が問題となるレベルのものか、そして予測や予防をする事が出来るのか、ということです。
     
    私はいつも治療前に患者さんに説明する事柄のなかで特に歯根吸収については、
    1、歯根吸収は予測することも予防することも出来ないということ
    2、程度の差はあるが、歯を動かせば歯根吸収は必ず起こると思っていて欲しい、ということ
    3、内分泌疾患や、外傷既往のある歯は吸収しやすいということ
    4、インドメタシンや、ある種の薬剤(安定剤など)は歯根吸収を起こす原因となること
    5、遺伝的傾向があり、父母兄弟で吸収した人が居る場合は、吸収しやすいということ
    6、一度短くなった歯根は、元には戻らないということ
    7、歯根吸収が起こっても、隠したりせずに、全て知らせるということ
    などを説明していますが、自分の知識をアップデートする必要があると思い、Sameshima 教授の話を聞きに行きました。
     
    教授の講演は、12のQ&Aを含めたもので、ここに書く内容は、自分の普段の臨床経験を加えてありますので、講演内容とは少し違う部分もあると思いますが、患者さんの皆さん、若手の先生方の参考になれば幸いです。
     
    Q1:歯根吸収は本当に問題であるか?
    Q2:歯根が極端に短い歯を移動することは可能か?
    Q3:根未完成歯を移動することは可能か?
    Q4:根管治療を行ってある歯や外傷歯を移動することは可能か?
    Q5:歯根吸収のリスクのある患者さんをどうやってマネージすれば良いか?
    Q6:インプラントスクリューを用いた矯正治療は歯根吸収が顕著であるか?
    Q7:インビザラインなどのアライナーでは歯根吸収は起こらない?
    Q8:矯正治療中に歯根吸収が進行しているのを見つけた場合、どうすれば良いか?
    Q9:治療終了時に歯根吸収を見つけた場合、どうするか?
    Q10:歯根吸収は、レントゲン無しで見つけることが出来るか?
    Q11:歯頚部の侵襲的な歯根吸収はどうするか?
    Q12:短根歯の長期的な予後は?
     
    講演はまず、矯正治療で歯根吸収を起こした患者が、補綴科の2年目のドクターに「歯根が吸収しているから抜歯してインプラントにしないとダメだ」と言われたために、トラブルになりかけた症例から始まりました。
    レントゲンでは、実際には歯根吸収は若干認めるものの、抜歯しなければならないほどの状態ではなく、結局その歯は抜くことなく、今現在も抜歯することなく、ちゃんと機能しています。
     
    この症例で最も問題となるのは、知識の不十分なドクターが患者さんに正しくない情報提供をしたために、患者さんがそれを鵜呑みにした、ということです。
    私のところにも、他医でトラブルとなった患者さんが頻繁に来られますが、泣きついてきた患者さんに否定的なコメントをする際には、私見では無く、そのコメントを裏付ける理論的・学術的説明をきちんとしなければならないと考えます。
    同時に、そのコメントをするという事は、たいへんな責任がついてまわることを忘れてはなりません。
     
    査読制度のある学会誌の論文などは信頼できますが、学術的背景のない研究会などで聞きかじったような間違った知識をもとに、他医がやったことを批判するなどというのは言語道断です。
    一番迷惑するのは、振り回される患者さんであり、前医ですから。
     
    質問に対しての答は、順に列挙します。
     
    A1:まず、歯根吸収が問題となるかどうかは、どの程度吸収しているかで有り、歯の寿命が短くなるのは50%くらいである、とのことでした。これに関しては、論文を読んでみないと正確なコメントは出来ませんが、長期的予後となると当然成人患者となり、歯周病のコントロールでかなり予後は変わってくると思います。
     
    A2:私は、治療前に歯根が短い事がわかっている場合には、短い事を説明し、さらに短くなった場合は、歯の寿命が短くなることがあるということを説明した上で治療を行っていますが、それで正解でした。
     
    A3:根未完成歯については、私は基本的に矯正力をかけることは避け、根完成を待つようにしています。これは、歯根吸収の可能性だけではなく、未完成歯を動かすと、歯根弯曲歯になることが懸念されるからです。講演では、歯根吸収に関しては、さほど心配する必要は無いが、やはり根の形成がストップした症例もあるとの事でした。
     
    A4:根管治療を行ってある歯は矯正できないという先生や、根管治療を行ってある歯は歯根吸収しないという先生がいますが、これらはいずれも間違っており、失活歯でも矯正は可能ですし、失活歯だから歯根吸収しないということはありません。私の認識は正解でした。
     
    A5:自分の認識では、歯を動かせば、歯根吸収は必ず起こる、と考えています。「しない症例もある」と豪語する矯正医も居ますが、レントゲンで短くなっていないから吸収が無いとは言えないわけで、顕微鏡レベルでみれば、骨の吸収と共に必ず吸収窩が歯根にも認められます。ただ、問題となるのは、吸収が問題となるレベルかどうかということです。 私は、歯根吸収が認められた場合や、本来予期していなかった好ましからざる状況が起こった場合には、患者さんには隠すことなく、全て開示し、説明をしています。吸収しやすいような形態の歯や、外傷歯、特にⅡ級症例は、吸収の可能性が高くなるように思われますので、これらを如何にマネージするかは、治療を始める前にその可能性を説明し、同意をえてから治療開始するしか方法はありません。
     
    A6:TAD(インプラントスクリュー)を使うと歯根吸収が著しいかというと、Ⅱ級症例のように歯の移動距離が大きくなれば歯根吸収の可能性は増えますが、同一条件で比較すれば有意な差はないと考えます。これは当たり前の事で、私の認識は正解でした。
     
    A7:インビザラインに関しては、以前にSameshima先生が、インビザラインでは歯根吸収が認められない、と発言したことが有り、それ以来、インビザラインは歯根吸収しない、と言われている、しかしこれは間違った情報で、歯根吸収しないのは歯の移動が少ないからで有り、歯根を移動した症例では歯根吸収が認められた、とのことでした(当然です)。私がひろ矯正歯科のホームページのあちこちに書いているように、インビザラインをはじめとするアライナーで、通常の矯正装置を用いたのと同じ結果が得られるならば、誰もブラケットなど使わなくなります。インビザラインなどのアライナーに属する装置は、動かないから吸収しない、ここでも裏付けられました。
     
    A8:矯正治療中に歯根吸収を見つけた場合、私は、患者さんに説明して一旦、矯正力をかけるのをやめてパッシブな状態で6ヶ月ほど待ち、骨がヒーリングしてから、再度力をかけるか、そこで治療を終了とするかの判断を患者さんにして頂きます。私の行っている事は正解でした。私の私見ですが、このような症例で再度矯正力をかけて、さらに短くなった、という人は非常に少ないです。
     
    A9:治療終了時に歯根吸収を見つけた場合、患者さんに隠す先生が非常に多いと思いますが、私は隠すことなく、治療前と治療後のレントゲンを見せて説明をしています。私の臨床は正解でした。
     
    A10:歯根吸収をレントゲン以外の方法で知るには、超音波画像診断、頬粘膜の擦過標本から分析する方法、歯肉滲出液に含まれるタンパク質を検出する方法(GCF, Dentin proteinがマーカーとなる)、とのことでした。これは知りませんでした。
     
    A11:歯頚部の侵襲的吸収を認める症例、これはかなりキビシく、吸収を止めることは出来ないと認識しています。つまり、吸収が進行し、その歯は近い将来、脱落に至るということです。ただし私の経験上、この類の吸収は、外傷既往によるもので、矯正力をかけたことが原因では、普通は起こりません。
     
    A12:短根歯の長期的予後は、60代、70代まで観察していないので確かな事は言えないですが、1に述べたように歯の寿命が短くなるのは50%、歯根が短いから歯の寿命が短くなるとは必ずしも言えないとのことでした。私はいつも歯根の長さについて説明する際に、地面に刺さった杭の話しをします。長ければ長いほど抜けにくく丈夫であり、短くなれば長いのに比べれば不利かも知れない。しかしながら、長い杭でも周りの地べたがぬかるんでグラグラになれば抜ける(歯周病)、歯周病のドクターには、歯根吸収を問題だと考えている先生が多いけれども、私の意見は、歯磨きも十分に出来ないような凸凹の歯並びや、無理な力がかかるような歯並びのままいくら歯周病予防をしようと思っても無駄である、ということです。歯根吸収のリスクがあっても、歯科医師として、予防の出来る歯並びにしてあげることのほうが大切である、ということです。
     
    まとめますと、歯根吸収が起こりやすい要因としては、
     
    1、遺伝的要素、つまり患者さんの親や兄弟が吸収した場合、その患者さんも吸収すると思って良い。
    2、歯の移動距離が大きくなる、治療期間の延長、これらは歯根吸収の要因の一つとなる。
    3、成長期の患者に比べて成人患者は歯根吸収の要因の一つとなる。
    4、気管支喘息は歯根吸収の要因の一つとなる(これは知らなかったです)。
    いずれも普段私が患者さんに行っている事、説明している事は一つも間違っていませんでした。
     
    本学会で最も印象深かったのは、学会の開会の挨拶で、大阪府歯科医師会の会長である太田謙司先生が、「矯正歯科に関するトラブルが多い、原因は数回セミナーを受講しただけで安易に矯正治療に取りかかる歯科医師がいる」、と仰ったことで、矯正専門医では無い一般歯科医の先生からこのコメントが出るとは思いもしませんでした。
     
    先日、私が「不適切な矯正治療」の記事をアップしてから、不愉快に思っておられる一般歯科の先生が多いだろうと察します。
    私は、一般歯科の先生達は矯正をしてはいけない、などとは書いていません。
    やる以上は、しっかりと勉強をして、患者さんに迷惑がかからないようにして貰いたい、ということです。
     
    先日も、一般歯科で8年以上、毎週治療に通い続けたが、治らないから転医を決めたという患者さんが来られました。
    その先生のことはよく知っていますが、いつも「歯医者辞めた方が良いんじゃない?」と思います。
     
    矯正が出来ないというと、自分が歯科医師として失格であるように勘違いしたり、舌側矯正をやらなければ矯正医として半人前であるように勘違いをしている先生が多いですが、私達医療人は、自分には治療出来ない、あるいは、自分が手を付けるべきでは無いと判断した場合は、然るべき医療機関に紹介する、これが大原則の筈です。
     
    このあたりは、お医者さんはキチッとされているが、歯医者の先生は「出来ない」と言わないで「治療が必要無い」と言う先生が非常に多いように思います。
    例えば、開業医の内科の先生の所に来た患者がガンで、その先生に治療が出来ないとなれば、躊躇せずに対応出来る病院に紹介します。
    ところが歯医者の場合、例えば、埋伏智歯が抜歯できない場合、口腔外科に紹介するのでは無く、こんなものは抜かなくても良い、と言う、こうゆう事例です。
     
    舌側矯正に関して言うと、incognitoなどの装置を使えば簡単に舌側矯正が出来ると勘違いしている先生がいますが、舌側矯正は診断から違いますので、装置がなんとかしてくれるだろうと、十分な知識も無いまま治療に取りかかるのは、大怪我の元、迷惑するのは患者さんです。
     
    絶対に忘れてはならないのは、歯科医師が生計を立てるために患者さんが居るのでは無く、私達が患者さんに治療を行った報酬、診療対価としてお金をいただいているのだということです。
    医院経営、収入アップの事しか考えない歯科医師がなんと多いことでしょうか。
     
    そして、患者さんの皆さんは、矯正も「歯」だから、歯医者に行けば何処の歯医者でも同じように診てくれるだろう、という間違った認識を改めるべきです。
    歯科で標榜の認められているのは、矯正歯科、小児歯科、口腔外科です。
    すなはち、これらは専門の知識とトレーニングを必要とするということを国が認識しているということです。
    足の骨を骨折して、眼科に行く人は居ないと思います。
    眼科医が骨折を治療しても医師法違反にはなりません。
    でも、眼科医は骨折の治療をしませんし、患者も眼科で骨折を治して貰おうとは考えません。
    一般歯科で矯正治療を受け、何年も通ったあと、大変な事になっていると気付いて矯正専門医に駆け込む、こいうった事例が毎年あとを絶たないということは事実です。
     

    学会では、上記の他、Dr.Dan Grauerの “The secret behind your smile: Vertical considerations”という特別講演、会員の学術講演5題、学術展示28題、症例展示24題の発表がありましたが、Dr.Dan Grauerの講演は、電車の時間の関係で聴けなかったのが残念です。
     

    10, 11日は、日本臨床矯正歯科医会例会がメルパルク大阪で開催されました。
    日臨矯には入会して9年になりますが、毎年海外の学会と重なるために、今まで2,3度しか出ていません。
    今回は時間調整がつきましたので、参加しました。
    承継に関する演題など、聞きたい演題もいくつかあったのですが、いろいろと思う所がある例会でした。
     
     

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