6月3日~7日、アムステルダムの RAI Conference & Exhibition Centre で 第81回 European Orthodontic Society Annual Meetingが開催されました。
学会の前々日、前日と、ヨーロッパの矯正専門医の試験である European Board of Orthodontistsが行われ、私は全て舌側矯正で受験し、合格しました。
舌側矯正での受験・合格は世界初です。
世間では舌側矯正のことを「治療期間が長く、ちゃんと治らない」と悪く言いますが、これは出来ない先生が言っていることで、事実は異なります。
私は、舌側矯正の治療結果を自画自賛し、自己満足にひたるではなく、治療結果を公的機関に第三者評価をして貰うことが必要であると考え、今回この試験に全て舌側矯正で挑戦しました。
この試験はヨーロッパの矯正専門医のための試験ですが、ヨーロッパ全域でも合格している先生は僅か66名と、非常に難しい試験です。
自分は2003年に英国矯正歯科認定医試験(M-ortho RCSEd)に合格しているので受験資格があり、今回、恩師の出口先生に勧められて受験しました。
試験は学会の定めたカテゴリー別に Treatment Recordを8例用意してプレゼンテーションを行い、Examinerが Candidateの治療のクオリティを評価します。さらに Examinerの用意した患者資料2例を自分で診断し、治療方針を立て、それについて口頭試問が行われます。
歯医者というと「楽で高収入」と思っている人が多いですが(そうゆう先生もいますが)、実際には肉体的にも精神的にも本当に重労働で、家に帰ると晩飯を食べながら眠ってしまうこともあるのです。
今回、European Board of Orthodontistsを受験するのは本当に過酷で、受験のための準備に何ヶ月間も毎日毎日、朝はスタッフのみんなが出勤する前から、夜は明け方まで受験準備です。
毎日毎日、診療だけでもクタクタになるのに、それに加えてのオーバーワークですから、本当にキツくて、何度か挫折しかけましたが、何とかやり通すことが出来ました。
学会発表の準備などをしていると、いつも「もう今回で最後にしよう」と思うのですが、毎年毎年、新しい目標が出てくるので、一生死ぬまでこうゆう生活かも知れません。でも、勉強しないと迷惑するのは患者さん達ですから、医療人として当然の生き方であると思います。
いざ、試験が始まりました。
2症例を60分で分析、診断をします。
試験は完全に匿名で行われ、Candidateは名前など一切記載せずに、公平な審査が行われます。
1例目はClass II div.2の症例。
試問が始まり、現症を説明しますが、2人の試験官はいずれも、入って来て握手をしてから、「Start it!」と言ったきり、ニコリともしない。
「うっ、まずい雰囲気だ、、、」と思いながらも、自分の立てた診断、治療方針、その理由等々について説明する。
第一症例は、普通なら「抜歯」と判断しそうなところだが、まず患者さんの Hand Wrist(左手の写真)を撮り、Growth potentialがあるならば、非抜歯で治療すると主張。
説明している間も、試験官は2人とも黙ったまま、何の反応もなし、、、かまわずに続ける。
2症例目は Skeletal IIIの Adult caseで、治療方針を2つ立案して説明。
「外科矯正だが、もしも患者さんが手術を受け入れなかったら、こうゆうふうに治療する」と説明。
試験官は、「そのとおりだ、これは外科症例だ」と、同意するが、2つ目の「もしも患者さんがオペを受け入れなかったら」という治療方針については首を横に振り、「It is not possible.」を繰り返す。
でも、自分は同様の症例をすでに治療して、良好な結果を得ているので、「出来る」と主張する。
Examiner VS Candidateは、Teacher VS Studentではないのだから、自分の主張を曲げるべきではない(と思う)。
「ここに MIAを打って、下顎の臼歯をこうゆうふうにUp rightすると Mandibleが Clockwise rotationするので、こうして、こうして治療する」と、治療のメカニクスを説明するが、聞く耳持たず。
何度も何度も「It is not possible.」を繰り返すので、
「I’m sure it is possible. I have a quite similar case, and obtained a satisfactory result. I would show you my case if you give me a chance to show it.」と言ってやった。
でも喧嘩ではないので、きちんと挨拶をし、握手をして部屋を後にした。
ACTAのロビーには歴史的なデンタルチェアーが展示してあります。
矯正歯科のエレベーター横には、矯正歯科学の歴史が。これは指しゃぶり防止用の指サックでしょうか。
これは Simonの顎態診断法でしょうか。
エレベーター横には、歯ブラシやフロスなどの自販機があります。
その日の午後はフリーなので、他の先生達と昼食を兼ねて市内観光に出かけます。
アムステルダム名物の風車です。
市内には縦横に運河が流れており、とてもロマンチックです。
6ユーロほどで キャナル・クルーズが楽しめます。
翌日、結果発表のため、RAIのEBOデスクに向かう。
封筒を開けてみると、
“We are pleased to inform you that you were successful in the Examination,,,”
やった!
今回、日本からのapplyは、出口教授、黒田先生、橋場先生、そして僕の計4名で、全員合格。
過去には、三村先生、正木先生、嘉ノ海先生、高木先生が受験して合格している。
今回の合格者を入れると日本人は8名合格、日本人の合格率は100%(!) というと、簡単な試験のように聞こえるでしょうが、とんでもない。
言語のハンディの無いヨーロッパの先生たち(自国語で受験出来る)でさえ、今回6人applyして、2人はリタイア、2人は不合格、合格は2人ですからきびしい試験なのです。
合格通知です! やった!!
合格者は試験に提出したファイルを学会場に展示することが決まっているので、ホテルに戻って資料を持って再び学会場に。
展示を終えて、昼前には学会のメインホールで合格証書の授与式です。
お昼は近くのイタリアンレストランで済ませ、再び学会場に。
親友のDr.Weichmannの口演を聴いて、出てきた彼と話そうと、、すると、僕の顔を見るなり、駆け寄ってきて
“Toshi!! I saw your EBO cases! You are the first people who submitted all 8 cases treated with Lingual Orthodontics, and passed it! It’s incredible! Congratulations!!” と我が事のように喜んでくれる。
彼の住むBad Essenからは会場まで車で2時間。
納車されたばかりの最新型のフェラーリF430でカッ飛んで来たとのこと。
うらやましいなあ、、。
EOS学会会場に資料を展示。僕のファイルを見るのに行列が出来る事も。へへへ。
その夜はConvention Factoryにて、カクテル・パーティ。
会場に入ってワインを飲んでいると、ESLOで顔見知りのドイツの先生達が声をかけてくれる。
「Toshi, お前のファイルを見たぞ!全部リンガルじゃないか!!すごいぞ!歴史に残るぞ!」
と我が事のように喜んでくれる。
和気藹々楽しく飲んでいると、近くに Examinerの1人がいるのを発見。
向こうも僕の存在に気付いているようなので、話しかけてみる。
名前がわからないので、とりあえず握手をして、御礼を言い、一通りの挨拶を。
で、得意のジョーク、
“Excuse me, Dr. Iceman, are you a,,,,”
と話しかける。
すると「ドクター・アイスマンってのは誰だ?」と、回りを見回すので、思い切り指を指して
「あんたや、あんた。だって試験の時、入ってきてから出てゆくまで、1度もニコリともしなかったじゃないか!僕が何を言っても、微笑みかけても無反応で、氷のように冷たい表情だったから、あんたはドクター・アイスマンだ!!」
と言ってやった。
そうしたら大爆笑して、
「いやいや、違うんだ、口頭試問の前に俺たち試験官は、お前のファイルを見たんだ。そしたら8症例全部リンガルだから、大騒ぎになったんだ。 な、な、何だ?? 一体どんな奴が試験を受けに来ているんだって。 あの時は俺たちが逆に緊張していたんだ!!」
とのこと。
ま、そこまで言われると嬉しい限りですが、まあ半分は社交辞令だろうと受けとめ、ワイン片手に話を続けます。
趣味の事、矯正の事などを話していても「お前は矯正歯科医というより、アーティストだ!」と、あまりにも褒めてくれるので、
「僕はアーティストなんかじゃないよ、20年間、精一杯勉強し続けているけど、いまだに矯正歯科は僕には難しくて仕方がないよ。ただ、僕は頭が悪くて普通の人の半分しか働かない分、神が人より少しよく働く右手を与えてくれたんだよ。」
と話すが、納得して貰えたかな?
何はともあれ、今回も頑張った甲斐があった。
黒い上着を着ているのが試験官の一人の Dr.Moser、僕の左側にいるのが Dr.Moss.
みんないい先生ばかりです。
自分の地位名誉の事ばかり考え、人の邪魔をするような先生は、ここにはいません。
翌日、EBO Lunchに出席。
このランチは EBOのExaminerと歴代合格者、New memberだけのランチで、私たち、New memberはランチの際に自己紹介をして、バッチを授与されました。
バッジの授与です。
なかなかバッジが通らず、「これを通すのは、リンガルのように難しい、、」と笑う先生。
“Congratulations!”
“Thank you very much!”
ExaminerやEBO memberに自己紹介をします。
7日は旅立つ日です。
飛行機は夜発なので、この日だけ、やっと半日観光が出来ました。
Canal cruseに、Lemblandt Houseに、と、いつものとおり、歩きまくりました。
アムステルダムのロマンチックな街並み
Canal Cruiseに tryしてみました。
クロケットとホワイトビール。
このクロケットがメチャメチャ美味しかった。もちろんビールも。
いつもどおり、明日からまた患者さんがギッシリ入っています。
勤務医がいれば楽なんですが、今のところ、自分一人で頑固一徹な治療を行っています。
それがひろ矯正歯科に来てくれる患者さん達にとってベストだと信じています。
3月26日~28日、赤坂のホテルニューオータニにて、第2回国際舌側矯正歯科学会が開催されました。
僭越ながら、今回も口演発表をさせて頂きました。
講演内容は、Lingual Straight Wire Applianceに関する治療、そして、私が現在使っている超小型の舌側矯正用ブラケット、Micro Lingual Applianceについてです。
前者は第4回ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(ベルリン)で、後者は第5回ヨーロッパ舌側矯正歯科学会(バルセロナ)および、アメリカ舌側矯正歯科学会(オーランド)で報告したものですが、本邦においては未だ未公開となっていましたので、報告をさせて頂きました。
毎年恒例の Dr.Fillionの Pre-congress course.舌側矯正初心者、これから舌側矯正を始めようと思っている先生は受けた方が良いと思います。
Micro Lingual Applianceは、現在世界中で広く用いられているKurz Applianceが抱えている問題点、すなわち、
等々の問題を改善するために、私がオリジナルで開発した超小型ブラケット(現在、ひろ矯正歯科での治療に用いられている装置です)です。
この装置を用いるようになってから、以前とは比較にならないほど快適に舌側矯正が受けられるようになっています。
よく、舌側矯正の事を「治療期間が長い」とか、「ちゃんと治らない」等々、悪く言う先生が多いですが、現在では、外側からの矯正と同じ治療結果を、外側からの治療期間よりも短期間で治せるようになっています。
学会最終日の最後の講演だというのに殆ど帰る人も見られず、皆さん聞き入って下さったのには感激しました。
口演は2日目の最後から2つ目、俗に言う「大トリ」で、こんなゴールデンタイムに時間を与えていただきました日本舌側矯正学術会の幹部の先生方に心からお礼申し上げます。
学会前夜から終了まで、世界を代表する舌側矯正の先生方と交流をはかりました。
舌側矯正学術会は今期で会長が交代し、新たなスタートを切ります。
大学の医局員時代、公私共々大変お世話になった 松本歯科大学教授 出口敏雄 先生が、このたび Indiana University で、名誉ある Jarabak Award を受賞されました。
それにともなう Mini residency があり、舌側矯正について話す機会を与えて頂きましたので、僭越ながら行ってきました。
日本からは僕の他には、浅井先生、嘉ノ海先生と、出口徹先生が行かれました。
インディアナ大学の矯正科といえば、世界を代表する数々の著名な先生を送り出している The best of the best です。
出口徹先生は、インディアナ大学の大学院を出られているし、浅井先生、嘉ノ海先生は世界でも名の通った先生。
皆さんに迷惑をかけないように頑張らねば、、。
いつもどおり、JAL悟空エコノミーでアメリカに向かい、お昼過ぎに無事Indianapolis に到着。
空港にはなんと Indy Car が飾ってあります!
ラスベガスは空港にスロットマシンがあるし、アメリカはさすが、やりよるの~。
空港に Indy Car が!
右から2つ目の茶色いビルがColumbia Club
いつもはレンタカーを借りるのですが、今回は Dr. Roberts の言うとおり、タクシーでホテルに向かうことにしました。
ホテルは Monument Circle 前の Columbia Club。
Monument は天辺まで登れます。
歴史のある、格式高いホテルで、短パンやTシャツ、野球帽などのラフなスタイルは禁止されています。
ホテルチェックインを済ませて、お昼を食べに出かけます。
Downtownを歩いていると、Brewery がたくさんあります。
交差点の角にある Brewery のパティオに席をとり、まずは、乾いた喉を潤します。
ランチはもちろん、ステーキ。
ベーコン巻きのテンダーロインが $12.80、安い割には柔らかくて美味しい。
ぷは~っ、うめ~っつ!
こいつも、うめ~っつ!
翌朝、Dr. Roberts がホテルに迎に来てくれました。
ロバーツ先生の車で走ること5分足らず、Indiana University School of Dentistry に到着。
部屋には過去に J. Award を受賞している Dr. Manuel Chanavaz、矯正界では知らない人はいない Dr. Boldwin や、Indiana Univ. の Resident students が20名ほどいます。
1日目は Dr. Chanavaz の講義が丸1日あります。
彼は医者ですので僕たちと住む世界が若干違います。
CT、MRI、Implant、TMJ の話から Distraction Osteogenesis まで、こんな素晴らしい講義を聴くのは久しぶりです。
誰にでも聞ける話ではないので、感謝、感謝。
講演中、質問がボンボン飛び出し、いつ当てられるかと冷や汗をかきながら1日が無事終わりました。
その日の夜は Dr. Roberts が Dinner に招待してくれました。
こんなに歴史のある、格調高いホテルは
滅多にないですね。
立っているのが Dr. Chanavaz.
咽の手術をしたばかりだというのに、大声で1日中熱演でした。
[ 2日目 ]
2日目の午前中、トップバッターは浅井先生。
Molar extraction と Retention について講演されました。
普段、Ext 部位で悩むことがありますが、さすが、浅井先生です。すげ~。
浅井先生、さすが。
コーヒーブレイクをはさんで、嘉ノ海先生。
嘉ノ海先生は CT と MIA について講演。これもすげ~。
何せ、個人開業医で CT や 3D printer を持っているんですから。
嘉ノ海先生、さすが。
途中から原稿を捨てて熱弁です。
昨日は日本人の事をバカにしていた Dr.xxx、口をポッカリ開いて、目が点になっています!
日本人をなめたらいかんぜよ。
絶対的なパワーではやはりアメリカが優位ですが、治療のクオリティなどを見ると、日本人の治療技術は やはり傑出しています。
午後1番は僕です。
開口一番、” Hello, everyone !! “というと、” Hello ! “という言葉が返ってくる。
お~、こんなレスポンスは初めてだ、頑張らねば!!
自己紹介を済ませて、舌側矯正は一般に期間が長くて治らないと言われているが、それは間違っているということを示した後、舌側矯正を成功させるための 6 keys を紹介。
TARG、CLASS、TOP System やRCIBS などの Laboratory Procedure について解説するとともに、Lingual SWA (これは世界で、僕と竹元先生と Dr. Scuzzo しか治療したことがないんだぞ! と)、僕がオリジナルで注文製作し、現在治療に用いている超小型ブラケットについて解説。
その後は出口先生が御自身の Orthodontic Career や ABO について講演されました。
僕も、がんばれ~。
出口先生の講義を受けるのは久しぶりです。
[ 3日目 ]
3日目の朝は 7:30から Resident student の配当された症例の検討会。
日本の大学の症例検討会も、こうあるべきですね。 是非、見習って欲しいです。
そのあと、出口徹先生が Osseointegrated MIA について、さらに日米の矯正患者の比較や PAR Score などについて講演。
徹先生は幼少期を Indiana で過ごされ、日本の歯科大学を卒業された後、つい最近まで Indhiana 大学の大学院にいらっしゃいましたので、英語は堪能、学業優秀、容姿端麗、、、真似をしたくても僕にはとても無理です。
日本の大学の症例検討会も、こうあるべきですね。是非、見習って欲しいです。
徹先生は Fluent というより、Native speaker です。
午後は University of Southern California の Dr. Kishibay が成人矯正について講演され、最後に出口先生が永年研究されている Chin Cap Therapy について講演されました。
講演が終わった後、Columbia Clubの10階 Ball room にてパーティーです。
Jarabak Award の過去の受賞者は、Hans Pancherz, Ram Nanda, John Lindquist, Robert Ricketts, Jim Baldwin, Charles Burstone, Manuel Chanavaz(non-US), and Webster S. S. Jee(non-US)で、出口先生の受賞は日本人で初めてです。(間違っていたらゴメンナサイ)
出口先生は今までにも日本人で初めて American Board of Orthodonticsに合格されています。
今回の受賞も本当に名誉ある事です。
弟子の一人として出口先生の受賞を心から嬉しく、誇りに思います。と同時に、これからも出口先生の名を汚すことがないよう、常に勤勉努力を欠かさないようにしなければならないと、あらためて思いました。
出口先生、おめでとうございます。
Dr.Roberts からバッジをつけてもらう出口先生
[ 4日目 ]
翌日は飛行機の関係で、フリーです。
もう一度大学の売店に行きたくて、ホテルから大学まで歩いて行ってみました。
歩いて20分位だったでしょうか。大学の売店でしか買えないオリジナルグッズをゲットしました。
Indiana University
School of Dentistry
こちらは医学部。
Book store でオリジナルグッズを!
これは何だったけな?
大学からホテルに行く途中にありました。
帰る前にもう一度、一杯。
(正確には、2杯です。)
明日は朝イチの便で帰国です。
明日からまた患者さんがギッシリ入っています。
時差ボケだとか、疲れたなんて言っている暇は 僕には ありません。
毎日、1日1日を無駄にしないよう、精一杯 頑張っています!