2026年 6月 28日、第 41回 甲北信越矯正歯科学会学術大会が松本歯科大学にて開催されましたので、参加しました。

本学会は、シンポジウム「難治症例における矯正歯科治療について再考する」と、日矯認定医委員会委員長の玉置幸雄先生の認定医・指導医に関する講演を聞くことを目的に参加しました。
特別講演は、福山市で開業の小川晴也先生が「Ⅱ級 1類の治療を成功に導く”6 keys”」という演題で講演をされました。
玉置先生御講演の認定医関連については、重みが違いますので、別の頁で改めて書きたいと思います。
シンポジウムでは、埋伏歯の牽引の適応症、引っ張っても出てこない症例等について、こうゆう場合は牽引不可等々の Discussionがありましたが、私は口腔外科が開窓してくれる埋伏歯であれば、基本的に全て牽引し、歯列内に誘導しています。
移転が著しく、1歯 2歯飛び越えて移転している場合には牽引されずに抜歯されてしまうのが普通ですが、私は出来る限り抜歯せずに その歯本来の位置に牽引誘導するようにしています。
埋伏歯が Ankylosisを起こしているものは、脱臼・unlockして牽引しています。
40年以上の矯正臨床で、牽引できなかった埋伏歯は 1症例だけ、しかもそれは技術的な問題では無く、患者さんの希望により牽引を中止して抜歯になったものです。
以下に埋伏歯牽引症例を紹介します。
このような 1本〜数本の歯を飛び越えて移動するという症例は 他では見れないと思いますので、大学病院等で認定医等の研修中の先生方の参考になれば幸いです。
症例 1

変なところから歯が生えて来たと心配して来院されました。

パノラマでは、本来赤い矢印のところに生えてこなければいけない左上の犬歯(黄色い矢印)が小臼歯を飛び越えて後ろに生えてきているのが観察されました。

左上の犬歯を開窓し、小臼歯を飛び越させて、犬歯を本来の位置に牽引誘導します。

牽引開始から 4ヶ月、犬歯は 4番を飛び越えて本来の位置に移動しました。移動の際には、犬歯の歯冠と4番の歯根が干渉して 4番の歯根がダメにならないように、4番の歯根を内側に振っています。

上顎にマルチブラケットを装着し、牽引した犬歯を歯列内に誘導します。

マルチブラケット装着から 8ヶ月、犬歯は歯列内に納まりました。

第二大臼歯の萌出が遅かったために、マルチブラケットの治療期間は 3年 5ヶ月かかりましたが、手を抜かず第二大臼歯までキチンと治療しました。次回装置を外します。

無事動的治療が終了して、治療終了から 3年後の状態です。牽引誘導した犬歯も、飛び越えた小臼歯も問題無く、経過良好です。

治療終了から 3年後のパノラマです。牽引誘導した犬歯も、飛び越えた小臼歯も、歯槽骨および歯根に問題は無いのがわかります。
症例 2

前歯の反対咬合を主訴に来院されました。

検査をしたら、左下の犬歯が水平埋伏し、歯冠は右下の 1-2の間に位置しているのが見つかりました。普通なら 100%抜歯か、外科的に摘出して再植でしょうが、再植は歯根吸収を起こしてダメになることが多いので、再植はせずに、リスクを説明の上で 開窓・牽引誘導としました。

左下にインプラントアンカーを打ち、埋伏犬歯は開窓して歯冠にボタンを接着、インプラントからエラスティックチェーンで牽引します。

下顎にリンガルアーチをセット、アームを延ばして犬歯を遠心に牽引します。

牽引開始から 1年 3ヶ月です。下顎にマルチブラケットを装着、左下の犬歯を歯列内に誘導します。

上記の1ヶ月後です。左下犬歯はだいぶ上がってきましたが、歯根露出が著しいので、ブラッシング指導を行いました。

マルチブラケット装着から 1年 4ヶ月です。左下の犬歯は本来の位置に誘導され、歯列内に納まりました。歯肉退縮はブラッシング指導を行っています。

だいぶ仕上がってきました。左下の犬歯の歯肉はかなり上がってきました。

マルチブラケット装着から 2年 9ヶ月、牽引開始からから 4年 0ヶ月で治療終了しました。左下犬歯の歯肉退縮は引き続きブラッシング指導で様子をみて行きます。

移動した左下犬歯も、飛び越された 3本の下顎前歯も、歯槽骨・歯根共に問題無い状態です。

治療終了から 11年 3ヶ月、左下犬歯の歯肉退縮はほぼ問題の無いレベルまで回復しました。歯周外科手術などは行っていません。上顎正中に僅かなスペースを認めますが、反対咬合も再発せず、経過良好です。
症例 3

出っ歯を主訴に来院されました。

右上の犬歯が 1番 2番の間に割り込んで生えてきています。幸いにも 2番の歯根は まだダメージはありませんので、犬歯を開窓して、後方に牽引誘導を行います。

右上の犬歯を開窓し、歯冠に小さい装置を付けて、犬歯の牽引を開始しました。

犬歯は 2番を乗り越え、本来の位置に持ってくることが出来ました。

牽引した犬歯は歯列内に納まり、側方歯群が萌出しました。これで、歯を抜かずに治療が出来ます。

マルチブラケット装置を装着し、治療を行いました。治療期間は牽引開始から 3年、マルチブラケット開始から 1年 3ヶ月です。

治療が終了して 10年後の状態です。牽引誘導した犬歯はよく安定しており、前歯も臼歯も良好な状態を維持しています。
症例 4

前歯の噛み合わせが深く、犬歯が内側に生えていることを主訴に来院されました。下顎前歯が全く見えない状態です。右上犬歯は生えておらず、乳犬歯が残っています。

生えてきていない右上の犬歯は前歯の歯根尖付近に埋伏していることが確認されました。前歯の歯根はダメージは受けていないようです。

口蓋には動脈が走っているので、口腔外科専門医に頼んで開窓して貰いました。リンガルアーチにスプリングを付けて、まずは引っ張り出します。

無事牽引出来ましたので、今度は歯列内に誘導します。

上顎にマルチブラケット装置を付け、犬歯を歯列内に移動します。

下顎にもマルチブラケット装置を付けて治療を進めます。

牽引開始から 2年 6ヶ月、マルチブラケット開始から 1年 7ヶで治療を終了しました。治療前に前歯の噛み合わせが深かったので、浅く仕上げてあります。
午後の特別講演の小川先生とは、USC courseも同期で、元々は仲が良かった(?)のですが、あの LTSOAの SNSの一件で非常に気分が悪く、この書き込んだ奴とイイネした人とは今後のお付き合いは遠慮させて頂くつもりで、講演も聞かずに帰るつもりでした。

見てのとおり、公開範囲は限定されておらず、世界中の誰でもが見れる設定ですので、ボカシを入れずに掲載をしました。
小川先生が 2023年に東京矯正歯科学会で講演された内容(東京矯正歯科学会雑誌 33(2), 172-185)、すなわち「Ⅱ級 1類、その骨格パターンや治療方針の違いによる術後長期経過の相違について」を読んでみると、納得出来ない部分が多々あり、なおかつ、今回の講演に関しても抄録にも納得出来ない部分がいくつかありましたが、”まあイイか、気分宜しくないので帰ろう”と心に決めて学会に参加、朝イチ会場にいたら、小川先生のほうからお声がけ頂いたこともあり、折角なので、上記について質問してやろうと思い、聴講しました。
まず、1つめの質問。
「先生の言う“6 keys”、すなわち、①習癖に対する患者啓発、②口唇閉鎖不全のない良好なプロファイルの獲得、③適切なアンテリアガイダンスの確立、④長期安定のための矯正学的ルールの遵守、⑤大臼歯の遠心・圧下移動に過度に依存しない治療方針、⑥保定装置の設計と保定管理への配慮、とのことですが、これらはⅡ級 1類の治療に限った事では無く、全ての治療について言えることですので、何故にⅡ級 1類に特定しているのですか?」と質問しましたが、これに関しては明快な回答は無し。
そこで、東京矯正の話を出して、
「Class Ⅱ div.1は 4つのグループに分けられています。すなわち、Group 1が Skeletal、Group 2が Alveolar、Group 3が Horizontal、Group 4が Verticalで、これは先生も受講された USCの syllabusに書いてありますが、東京矯正の講演を含めて、これら各グループとの関連と考察についてお教え下さい」
とお聞きしたところ、そのような Groupは知らない、とのこと、、。
え〜っ、USC受けたんじゃないの? と思いましたが、小川先生から「廣先生はどう思いますか?」と逆に振られましたので、私は恩師の出口先生のお言葉を拝借して返答しましたが、コレって、質問に答えないで、逆に振るってのは反則技で、やってはいけない事な筈です。
それからもう一つ。
「先生は、LTSOAの”長期安定と長期保定は違う”という SNSへの書き込みに賛同しておられます。つまり、長期安定と長期保定は違うというお考えの筈ですが、本日は “長期安定”というタイトルですが、提示された症例は、27年間、30年間、Fixed retainerが入っていますが、どうゆうことですか?」とお聞きしたら、先生からの答は「どーでもいいんですよ」とのこと、、、。
いや、どーでも良くはないでしょう。

小川先生曰く、「でもね、保定していなくても、長期間変わらない症例もあるんですよ、あの材料屋さんの、、」と言われましたが、これもおかしな話で、咬合は常に変化する、歯並びは年々悪くなる、しかも矯正治療後の歯並びはずっと同じでは無い事はわかっているわけですから、矯正治療後の咬合が長期間変わらないっていうことはあり得ないわけで、パット見、綺麗な咬合状態を維持していても、咬合が変わっていないわけがないので、先生が今回の講演の中で話された臼歯部の咬合安定の精度追求の考えと矛盾しているのではないでしょうか。

咬合接触についてのお話しで、臼歯は図右のように咬合していなければならない、それは矯正で歯を動かして調整する、或いは咬合調整を行う、とのことですが、こんなこと無意味であり、無理であると思います。
なぜなら仮に矯正でこのような精密な咬合を作ったとして、それがいつまで変化せずに維持して行けるか考えればわかる問題です。
私がいつも言っていることですが、矯正治療後は総義歯の人工歯排列のような歯並びではなく、治療前の状態を考慮して Over treatmentを組み込んだ Finishingが絶対に必要ですから、治療終了時には Anterior guidanceを含め、いろんな点で理想咬合になっていないことがありますし、その方が良いと考えます。
このへんが一般歯科で矯正を少し囓った先生には分からない/出来ない ことです。
本当は小川先生には、「先生は長期保定と長期安定は違うと言う意見に同意しておいて、長期安定の演題で長期保定の症例を出してくる、一体何を考えてるんですか⁉」と、ガンガンに質問して、先生の口から あの SNS野郎の言っていることを否定する言葉を引き出してやろうと思っていたんですが、甲北信越矯正歯科学会は日本矯正歯科学会の地方学会であり、ESLOの会長になれない日本人が ESLOをぶっ潰す目的で作った 某学会などとは違って由緒ある学会ですので、節度を保たねばなりませんし、聞いている人が不愉快になるような言い方は慎まなければなりませんので、丸〜く質問させて頂き、あまり突っ込まずに終わりました。
私は最前列に座っていましたので、講演終了後、小川先生に握手を求められて、握手して終わり、という形になりましたが、学会終了後、後輩から「廣先生、なんで握手なんですか!?」と言われましたが、公の場で握手を求められているのに拒否するのはマズいでしょう、、。。
このブログを読まれた方には、自分は SNSでボロクソ書かれて怒ってるのに、院長日誌でこうゆうこと書いて良いのか、と思われるかも知れませんが、違いは相手に了承を得ているかどうかだと考えます。
上記の SNS野郎とは、海外の学会でも一緒に食事したり、ドライブした仲でしたが、一言の断りも無しにボロクソ書いて、その後も謝罪も無し、掲載削除も無しですが、私は一応、小川先生には会場でお伝えして、事前に同意を得てあります。
以下、小川先生の抄録を記しておきますので、御参考までに。
矯正歯科治療の目的は、審美的にも機能的にも良好で長期に安定し得る治療結果を獲得し、患者の健康に永く寄与することである。デジタル技術の進化に伴い矯正装置はより扱いやすくなったとはいえ、重要なのは歯を安定すべき位置へ移動させることである。一方、治療後の歯列・咬合状態が審美的に良好であっても機能的に適応していない場合には、歯・筋・顎関節・歯周組織のみならず身体のさまざまな部位に悪影響が及ぶことが知られている。したがって、加齢変化を伴いながら長期間安定を維持するためには、適切な診断と治療方針のもとに歯を移動させるとともに、咬合干渉や悪習癖など矯正装置以外の要因にも十分配慮することが重要である。
演者は長期安定症例の観察から、口唇閉鎖不全のない良好な側貌とアンテリアガイダンスを備えた咬合が長期安定のために必要であると考えてきた。本講演では、これら2 要件をII 級1 類症例の治療目標に組み込み、治療後の長期安定を獲得するための“6 つのKey”について述べる。すなわち、①習癖に対する患者啓発、②口唇閉鎖不全のない良好なプロファイルの獲得、③適切なアンテリアガイダンスの確立、④長期安定のための矯正学的ルールの遵守、⑤大臼歯の遠心・圧下移動に過度に依存しない治療方針、⑥保定装置の設計と保定管理への配慮である。
さらに、安定症例の保定管理は重要であるが、アンテリアガイダンスの喪失や臼歯部咬合の崩壊が危惧される後戻り症例に対し、習癖への患者啓発や保定装置を兼ねた適切な形態のスプリントを用いた術後管理を行うことも極めて重要である。このような不安定症例にも術後対応を続けることが、患者に長期的な安心を提供する術後管理につながり、ひいては矯正歯科治療が国民に信頼される医療として認められることに繋がると考えている。
本講演が、II 級1 類症例に対する治療戦略の立案と術後管理の実践における一助となれば幸いである。