menu
MENU

院長日誌

  • 第77回日矯学会に参加して感じたこと

    2018年10月30日〜11月1日、第77回日本矯正歯科学会がパシフィコ横浜で開催されました。

    本大会は、第7回日韓ジョイントミーティングも併せて行われました。

    日矯学会の認定医・指導医・専門医を維持してゆくには、5年に1度の更新試験と、指導者講習会への参加、日矯学会が認めた学会に参加して5年間で所定のポイントを得なければなりません。

    日矯学会への参加は義務では無いのですが、歯科医師免許を下附されてから34年間、記憶の限りでは、日矯学会に参加しなかったのは一度だけ、開催地があまりにも僻地で交通の便が悪いために断念したことがあったように記憶しています。

    そのあと、学会場へのアクセスと周辺の宿泊施設の問題で、日矯学会大会は基本的に都市部で行う、と決まった筈ですが、最近はまた主管大学の近所で行われるようになってきています。

    個人的にはいろんな地を巡れるほうが楽しいですが、、。

     

     


    会場のパシフィコ横浜

     

    今回の日矯学会は、臨床セミナー、基調講演、教育講演、特別講演や240にも及ぶ学術展示、認定医・専門医試験に提出された症例も全てチェック、3日間、まったく会場から離れることが出来ませんでした。

     


    学術展示会場

     

    AAO会長のBrent E. Larson先生の “Creating an Exciting Future for the AAO”、ギリシャ矯正歯科学会会長のPanagiotis Skoularikis先生の “An Overview in European and Greek Orthodontics”、Asian Pacific Orthodontic Society会長のYanheng Zhou先生の “Digital Orthodontics, Current and Future” 、そして2020年に開催されるIOCの委員長の小野卓史先生の “未来への想い:2020年とその彼方へ”という講演は非常に興味深く聞くことができました。

    なかでも、World Federation of Orthodonticsの会長であるAllan Rhodes Thom先生の “How did we get here and where are we going? Orthodontics around the world”、さらにBoston Univ.の主任教授であるLeslie A. Will先生の “Orthodontic education in the United States: Past, Present, and Future”という講演は、最近自分が憂いていることと全く同じ事をそのままお話しされており、自分だけでは無く世界のいろんな矯正専門医が最近の矯正歯科の風潮に嘆き、将来を憂いているのだと確認することが出来ました。

    その最たるものは、「マウスピース矯正」です。
    日本では「マウスピース矯正」という言葉が使われていますが、アメリカでは、Alignerには “Orthodontics”という言葉は使われていないのです。
    つまり、あんな物は矯正治療では無いのです。
    AlgnerのUser(先生ではなくてUser)が集まり、「Aligner研究会」なるものを各地で行っています。
    誰が何処に集まって何を話していようが、それは自由です。
    ただ、真剣に矯正歯科に取り組んでいる矯正専門医の立場から、はっきりと言っておきたいのは、あんな物に「マウスピース矯正」などと「矯正」という言葉を使うのは断じてやめて頂きたいということです。

    「矯正歯科」とは、治療に必要な検査を行い、それを分析し、矯正診断を行い、治療方針を立て、計画的に治療を行うものであり、歯科矯正学の専門的知識と並々ならぬ努力の元に培われた技術がなければ治療が出来ないものです。
    今から約100年ほど前のE.H. AngleとC.H. Tweedの論争は矯正歯科医であれば誰もが知っていることです。

    アライナーについては、EACFMSのブログにも書きましたが、あんなものはMarcy’sでキットを買って送れば、装置を作って返送してくれるので、やりたい患者さんは歯医者に法外なお金を払うのではなく、直接そちらに注文すれば良いのです。

    つまり、検査も必要無ければ、分析も診断も必要無い、歯が並べばそれでOK、こんなものは矯正歯科ではないのです。

    Will先生も「アライナーは一般歯科医がやるものであり、矯正歯科専門医がやる物ではない、ネットで注文できるし、スーパーマーケットでも売っている」と、スライドを出されてはっきりと言っておられました。
    Invisalineが発明された当初、歯には何も付けずに透明の薄い取り外しが出来ることが画期的であった筈です。
    白人の非抜歯の簡単な症例は多少動かす事は出来ても、日本人の著しい叢生症例や抜歯症例でコントロールが出来なくなってくると、歯にボタンやノッチを付け始め、挙げ句の果てには、最近では顎間ゴムまで使っていますが、見ていて見苦しいことこの上ない、悪あがき以外の何でもないという事です。
    ブラケットとワイヤーで歯をコントロールする技術が無いからそんな事をやるなら、矯正歯科を辞めればいいと思いませんか?

    ユーザーの1人は、「ヒロは何故そんなに忙しいんだ、1日中ワイヤーを曲げているんだろう、アライナーにすれば楽だよ」と言いましたが、「100の結果が出せる技術があるのにサボりたいからアライナーで 50,40,30のレベルの治療をするくらいなら、歯医者を辞めたほうがいい」と言ってやりました。
    矯正治療を受けるために一生懸命働いて貯金して、何時間も車を運転して治療にやってくる患者さんや、子供の歯並びを治すために夜遅くまでスーパーで働くお母さんを見ていると、自分にはそんないい加減な事は出来ません。

     

    それからもう一つ、医療分野ではデジタル化が盛んに進んでいます。
    デジタルを精力的にやっている先生が「日本は遅れている」と口癖のように言いますが、はっきりと言わせて貰うと、日本が遅れているのではなく、日本人の矯正治療に用いるには、Hard, Soft両方の点で、まだ満足のいくものではないために、殆どの先生が導入を見合わせているのであり、「遅れている」のでは無い筈です。
    過去の院長日誌にも書きましたが、自分が Incognitoの発明者であるDirk Wiechmannの Officeに遊びに行ったのが2003年、今から15年前で、Incognitoが今のように一大勢力になる遥か前、そして私の臨床にも Incognitoを取り入れて何症例か治療したのが12年前です。
    アメリカの某大学は今から8年前に全てデジタル化し、印象もアルジネイト印象をやめて Intra Oral Scannerに変えていますし、インドの先生は5年以上前にはすでに 3DCTと Intra Oral Scannerの dataを combineさせてIBSを行っています。

    ひろ矯正歯科でも舌側矯正の Set upを Digital set up+3D printerで行ってみましたが、「お話にならない」レベルで、working timeも比較にならないため、IBSは従来どおりの manual set upを使っています。

    私が言いたいのは、digitalの話をする先生は、digital化していない先生を遅れているように言い、digitalの良い点しか言わないという事です。
    良いことだけを強調して述べ、悪い点については触れないのは、医学の進歩に貢献するどころか、逆に妨げになります。
    私がDGLOでDigitalについて講演をさせて頂いた時には、Digitalの良い点だけでなく、問題点もしっかりと指摘してきました。
    いつかは全てデジタル化することは間違いないでしょうが、現時点では digitalよりもnon-digitalの方が優れている点が多々あります。
    CAD/CAM冠などが良い例で、職人的技工士の焼成した陶材焼き付け冠とは比較にもなりません。

    矯正歯科は職人的要素が強い医療分野であるだけに、自分は DigitalとNon-digitalをしっかりと使い分けてゆきたいと思っています。
    私達がdeviceを使うのであって、deviceに私達が使われているようではオシマイです。

     

    Angle Orthodontistに掲載されたpaperを紹介します(画像クリックで full textに飛びます)。
    Angle誌は全文を読むには所定の手続きを踏まないと読めないのですが、この記事は Open accessですので、ここに紹介します。
    日本の矯正歯科の先生方、読んでみてください。
    このままで良いと思いますか?

     

     

     

    来年の日矯学会は、11/20-22日、長崎のフリックホールで開催されます。

     

to top