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院長日誌

学会・セミナー

  • 「医療訴訟 〜明日は我が身〜」

    2019年3月7日、塩筑歯科医師会学術例会にて、「医療訴訟 〜明日は我が身〜」という演題でお話しをさせて頂きました。

    「医療訴訟=医療ミス」、「何か失敗したんだろう」、というイメージがありますが、医師側には全く過失が無いにも拘わらず、患者が事実無根の嘘偽りを並べ立てて、1000万円近くの損害賠償請求を起こしたという、まったく信じられないような医療訴訟が実際にありましたので、歯科医師会の皆様にお話しをさせて頂きました。

    概要は以下のとおりです。

     

    ある歯科医Aが矯正治療を終了したあと、その患者Bが歯科医の指示に従わずに生じた不始末に対していろんなクレームを付けはじめたため、困った歯科医Aは永年医療連携のある某病院口腔外科に紹介しました。ところが、この口腔外科医長Cは、あろうことか、咬合診断に必要な検査を一切行わずに、BBO理論なる仮説の理論に基づいて「不定愁訴の原因は歯科医師Aの行った治療が原因である」という間違った診断を下し、その上、その診断書を患者Bに直接手渡ししたため、患者Bがそれを読んで、1000万円近くの賠償請求をするに至ったものです。

    裁判記録は3段のカラーボックスが一杯になるほどの膨大な量で、この記録によれば、歯科医Aは、患者Bの要求したとおりの矯正治療を行っており、治療結果も極めて良好、予定治療期間の延長もなし、治療中に新たに発生した齲触もゼロ、デンタルX線では歯根吸収もゼロ、パノラマX線では歯根の平行性も完璧、治療前のインフォームドコンセントも完璧、治療前には側貌予測も行い、治療後のレントゲンでは予測と寸分違わぬ結果を得ているという、非の打ち所の無い治療でした。それにも拘わらず、患者Bは呆れんばかりの悪質な嘘を積み重ねて、8年間もの間、延々と歯科医Aを苦しめ続け、嫌がらせを行いました。例えば、「抜歯に同意していないのに歯科医Aが勝手に抜いた」とか、「歯科医Aは診療中に大声で恫喝した」、「同意なく勝手に矯正装置を撤去して以後の診察を拒否した」等々、ここには書けないほどの内容と量ですが、これらは全て歯科医Aの持っていた証拠から患者Bの主張には信憑性が無いと裁判官が判断したものです。何度読んでも唖然とする、こんな嘘がまかり通れば、日本の医療は成立しなくなるという、呆れんばかりの内容で、世の中にはこんな人も居るのだという事を知り、凄く勉強になりました。

    訴訟終盤で裁判所は、80万円を歯科医Aが患者Bに支払う、という内容の和解案を出しましたが、歯科医Aはこんな嘘偽りに屈するものかと和解を拒否、最高裁まで闘って納得のいく判決が出なければ、即刻歯科医師を辞めるという決意の元、闘い続けました。

    一審結果は、「原告訴訟を棄却する」という判決で、歯科医Aの100%完全勝利でした。この判決には、歯科医Aの弁護士も、医療訴訟に詳しい矯正歯科学会の役員の先生達も大変驚かれたようです。患者Bは控訴を断念、歯科医Aは裁判では完全勝利を勝ち取ったものの、歯科医師人生で最も油の乗りきった 8年間をこんなクダラナイ事に時間を奪われ続け、家族と出かける時間も奪われ、趣味の時間も奪われ、研究等にかける時間も奪われたそうで、それだけでも患者Bは満足しているのではないでしょうか。

    私は歯科医師会でこの事例を紹介し、何も悪く無くても、こんな滅茶苦茶な訴訟を起こされる可能性があるということ、それはいつ我が身に振りかかるかわからないということ、そしてその対策法は何か、ということについてお話しさせて頂きました。
    会員の先生からは大絶賛を頂きましたので、要請があれば各種学会、研究会などでもお話しをさせて頂きたいと考えております。御希望の方はメールにて御連絡ください。

     

     

  • Angle Orthodontists

    2019年2月1日〜2月6日、St.Petersbergの Trade WindsE.H.Angle Society of Orthodontists(EHASO)Midwest components Annual meetingが開催されましたので出席してきました。

     

    meetingはいつもこんな素晴らしいリゾートで開催されます。

     

    Angleの学会は、ヨーロッパにもありますが、ヨーロッパの Angle Societyは別物で、アメリカの Angle societyとは関係ないと言う先生もいます。

    正直自分には良く分かりませんし、そのような事に興味もありませんが、たしかに EHASOの websiteにはそのリンクが張られていないので、そうなのかも知れません。わかっていることは、アメリカの Angle Societyは7つの componentsから成り、中には日本人を受け入れていない componentsもあれば、正会員になるのが簡単で日本人が物凄くたくさんいる componentsもあり、それぞれ独自の Characterを持っているということです。

    自分が挑戦したのは7つの中では一番難関でハイレベルだと言われている Midwestです(自分が言っているのではありません)。

    Midwestが一番上にランク付けされる理由は、Midwestの memberになるには、アメリカの矯正専門医(ABO)の資格を持っていることが条件であること、会員になってもポイント制で会員資格を維持してゆくには所定の発表や、割り当てられたノルマを果たさなければならないことなど、理由はいくつかあります。Memberの顔ぶれも錚々たるもので、かの有名な James McNamaraや James Baldwin、James Vadenや Sheldon Rosensteinなども Midwestの memberです。自分は日本矯正歯科学会専門医(JOB)やヨーロッパ矯正専門医(EBO)は持っていますが、ABOは持っていません。(ABOを取るには、アメリカの歯科大学ないし大学院を出ていないと受験資格がないので、自分にはABOは受験資格が無いからです。) Midwestは、そうゆう先生のために、会が ABOと同じ試験を行い、所定のレベルに達した者のみが memberになる資格が与えられます。

    ちなみにその試験の内容は、

    1. 面接

    2. 症例展示

    3. 筆記試験

    4. 臨床試験

    5. リサーチ

    です。

    2の症例展示は、自分には全く問題なく、3症例ともLingualの症例を持参しました。

    問題は3の筆記試験です。ABOと同じ multiple choiceの筆記試験で、歯科領域全般について出題されるために、学生時代に勉強したことをやり直すだけでなく、technical termも覚えなければなりませんが、毎日臨床に追われて試験勉強をする時間がまったく無い自分は惨憺たる結果であったと思います。

    4の臨床試験は ABOに準じており、この試験が EBOや JOBなど、他の試験と異なるところは、まだ治療をしていない患者さんの初診時の資料を10症例持って行き、治療が終わるまで毎年その治療経過を提出し、所定の期間内に治療を完了するだけでなく、治療結果も ABOの厳しい審査基準に基づいて採点され、それに合格しなければならないという点です。ただ、これは自分は100%自信が有りました。もともとAngleにapplyした理由は、この臨床試験に10症例全てリンガルの症例を提出して合格点を取ることだったのですが、Examinerから Labialの症例も出すように言われたために、全症例リンガルというのは実現せず、1症例は Labialの症例を提出しました。症例提出に際し、同意書にサインをして頂きました患者さんの皆様には心から感謝致します。

    4つめのresearchは、何でも良いと言うわけでは無く、何について研究をするか毎年 Scientific committeeと打ち合わせ、患者さんの資料を使う場合にはリサーチに取りかかる前に IRBを取得しなければなりません。大学に所属していない自分は、この面倒な IRBを避けて通りたかったので、舌側矯正のワイヤーを materialに使った研究をしました。

     

    2017年の meetingで全て自分はひととおりの requirementを果たし、本当なら2018年の meetingで大阪の井上先生と一緒に memberとして certificateを貰う筈だったのですが、2018年の meetingがドイツのリンガルの学会〜Paris Vと重なってしまったためにAngleには参加できず、今年になったわけです。

    ちなみに、Midwestのmemberで、日本で矯正歯科専門開業しているのは、自分と大阪の井上裕子先生の2人だけです。

    井上先生は大阪大学をトップで卒業された、頭脳明晰、もの凄く優秀で親切な先生です。

    Angleの memberになるのは長い道のりで本当に大変でしたが、これで終わりでは無く、ここから一層頑張らなければ、と思っています。

     


    今回、自分を含めて7名の先生が memberとなりました。

     


    アメリカではいつもOutback Steakhouseに行きますが、近くになかったために、Longhorn Steakhouseに。
    パンが出てくるなど、スタイルは基本的に同じですが、こっちのほうが安くて美味しかったです。

     

    お昼ごはんは毎日ホテルでOMG Burgerとビールを頂きました。
    OMGは、Oh My Godの略です。

     

  • 第77回日矯学会に参加して感じたこと

    2018年10月30日〜11月1日、第77回日本矯正歯科学会がパシフィコ横浜で開催されました。

    本大会は、第7回日韓ジョイントミーティングも併せて行われました。

    日矯学会の認定医・指導医・専門医を維持してゆくには、5年に1度の更新試験と、指導者講習会への参加、日矯学会が認めた学会に参加して5年間で所定のポイントを得なければなりません。

    日矯学会への参加は義務では無いのですが、歯科医師免許を下附されてから34年間、記憶の限りでは、日矯学会に参加しなかったのは一度だけ、開催地があまりにも僻地で交通の便が悪いために断念したことがあったように記憶しています。

    そのあと、学会場へのアクセスと周辺の宿泊施設の問題で、日矯学会大会は基本的に都市部で行う、と決まった筈ですが、最近はまた主管大学の近所で行われるようになってきています。

    個人的にはいろんな地を巡れるほうが楽しいですが、、。

     

     


    会場のパシフィコ横浜

     

    今回の日矯学会は、臨床セミナー、基調講演、教育講演、特別講演や240にも及ぶ学術展示、認定医・専門医試験に提出された症例も全てチェック、3日間、まったく会場から離れることが出来ませんでした。

     


    学術展示会場

     

    AAO会長のBrent E. Larson先生の “Creating an Exciting Future for the AAO”、ギリシャ矯正歯科学会会長のPanagiotis Skoularikis先生の “An Overview in European and Greek Orthodontics”、Asian Pacific Orthodontic Society会長のYanheng Zhou先生の “Digital Orthodontics, Current and Future” 、そして2020年に開催されるIOCの委員長の小野卓史先生の “未来への想い:2020年とその彼方へ”という講演は非常に興味深く聞くことができました。

    なかでも、World Federation of Orthodonticsの会長であるAllan Rhodes Thom先生の “How did we get here and where are we going? Orthodontics around the world”、さらにBoston Univ.の主任教授であるLeslie A. Will先生の “Orthodontic education in the United States: Past, Present, and Future”という講演は、最近自分が憂いていることと全く同じ事をそのままお話しされており、自分だけでは無く世界のいろんな矯正専門医が最近の矯正歯科の風潮に嘆き、将来を憂いているのだと確認することが出来ました。

    その最たるものは、「マウスピース矯正」です。
    日本では「マウスピース矯正」という言葉が使われていますが、アメリカでは、Alignerには “Orthodontics”という言葉は使われていないのです。
    つまり、あんな物は矯正治療では無いのです。
    AlgnerのUser(先生ではなくてUser)が集まり、「Aligner研究会」なるものを各地で行っています。
    誰が何処に集まって何を話していようが、それは自由です。
    ただ、真剣に矯正歯科に取り組んでいる矯正専門医の立場から、はっきりと言っておきたいのは、あんな物に「マウスピース矯正」などと「矯正」という言葉を使うのは断じてやめて頂きたいということです。

    「矯正歯科」とは、治療に必要な検査を行い、それを分析し、矯正診断を行い、治療方針を立て、計画的に治療を行うものであり、歯科矯正学の専門的知識と並々ならぬ努力の元に培われた技術がなければ治療が出来ないものです。
    今から約100年ほど前のE.H. AngleとC.H. Tweedの論争は矯正歯科医であれば誰もが知っていることです。

    アライナーについては、EACFMSのブログにも書きましたが、あんなものはMarcy’sでキットを買って送れば、装置を作って返送してくれるので、やりたい患者さんは歯医者に法外なお金を払うのではなく、直接そちらに注文すれば良いのです。

    つまり、検査も必要無ければ、分析も診断も必要無い、歯が並べばそれでOK、こんなものは矯正歯科ではないのです。

    Will先生も「アライナーは一般歯科医がやるものであり、矯正歯科専門医がやる物ではない、ネットで注文できるし、スーパーマーケットでも売っている」と、スライドを出されてはっきりと言っておられました。
    Invisalineが発明された当初、歯には何も付けずに透明の薄い取り外しが出来ることが画期的であった筈です。
    白人の非抜歯の簡単な症例は多少動かす事は出来ても、日本人の著しい叢生症例や抜歯症例でコントロールが出来なくなってくると、歯にボタンやノッチを付け始め、挙げ句の果てには、最近では顎間ゴムまで使っていますが、見ていて見苦しいことこの上ない、悪あがき以外の何でもないという事です。
    ブラケットとワイヤーで歯をコントロールする技術が無いからそんな事をやるなら、矯正歯科を辞めればいいと思いませんか?

    ユーザーの1人は、「ヒロは何故そんなに忙しいんだ、1日中ワイヤーを曲げているんだろう、アライナーにすれば楽だよ」と言いましたが、「100の結果が出せる技術があるのにサボりたいからアライナーで 50,40,30のレベルの治療をするくらいなら、歯医者を辞めたほうがいい」と言ってやりました。
    矯正治療を受けるために一生懸命働いて貯金して、何時間も車を運転して治療にやってくる患者さんや、子供の歯並びを治すために夜遅くまでスーパーで働くお母さんを見ていると、自分にはそんないい加減な事は出来ません。

     

    それからもう一つ、医療分野ではデジタル化が盛んに進んでいます。
    デジタルを精力的にやっている先生が「日本は遅れている」と口癖のように言いますが、はっきりと言わせて貰うと、日本が遅れているのではなく、日本人の矯正治療に用いるには、Hard, Soft両方の点で、まだ満足のいくものではないために、殆どの先生が導入を見合わせているのであり、「遅れている」のでは無い筈です。
    過去の院長日誌にも書きましたが、自分が Incognitoの発明者であるDirk Wiechmannの Officeに遊びに行ったのが2003年、今から15年前で、Incognitoが今のように一大勢力になる遥か前、そして私の臨床にも Incognitoを取り入れて何症例か治療したのが12年前です。
    アメリカの某大学は今から8年前に全てデジタル化し、印象もアルジネイト印象をやめて Intra Oral Scannerに変えていますし、インドの先生は5年以上前にはすでに 3DCTと Intra Oral Scannerの dataを combineさせてIBSを行っています。

    ひろ矯正歯科でも舌側矯正の Set upを Digital set up+3D printerで行ってみましたが、「お話にならない」レベルで、working timeも比較にならないため、IBSは従来どおりの manual set upを使っています。

    私が言いたいのは、digitalの話をする先生は、digital化していない先生を遅れているように言い、digitalの良い点しか言わないという事です。
    良いことだけを強調して述べ、悪い点については触れないのは、医学の進歩に貢献するどころか、逆に妨げになります。
    私がDGLOでDigitalについて講演をさせて頂いた時には、Digitalの良い点だけでなく、問題点もしっかりと指摘してきました。
    いつかは全てデジタル化することは間違いないでしょうが、現時点では digitalよりもnon-digitalの方が優れている点が多々あります。
    CAD/CAM冠などが良い例で、職人的技工士の焼成した陶材焼き付け冠とは比較にもなりません。

    矯正歯科は職人的要素が強い医療分野であるだけに、自分は DigitalとNon-digitalをしっかりと使い分けてゆきたいと思っています。
    私達がdeviceを使うのであって、deviceに私達が使われているようではオシマイです。

     

    Angle Orthodontistに掲載されたpaperを紹介します(画像クリックで full textに飛びます)。
    Angle誌は全文を読むには所定の手続きを踏まないと読めないのですが、この記事は Open accessですので、ここに紹介します。
    日本の矯正歯科の先生方、読んでみてください。
    このままで良いと思いますか?

     

     

     

    来年の日矯学会は、11/20-22日、長崎のフリックホールで開催されます。

     

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